ようやく春らしくなってきた夷の森で
樫の木とか桜の木とか楠木とかを伐っていたら、 風がドドドドドと吹いてきて、 茂みの中から、アライグマがのっそりと顔を出した。 「だんなさま、お腰につけた焼きおにぎり、一つ私にくださいな!」 醤油が焼けた香ばしい匂いに、 たまらず人間の言葉が出てしまったらしい。 「仕方ないなぁ。友だちになってくれたら、あげよかな!」 「おありがとざいす!」両手を合わせてお礼をいわれた。 よっぽど嬉しかったのか、今度の日本語は早口でちょっとおかしかった。 それからしばらくして、また風がドドドドドと吹いてきて、 茂みの中から、あのアライグマが顔を出し、 「だんなさま友だちです。これ、ありがと気持です」 泥だらけの手の中に小さな筍が二つ入っていた。 その筍を皮ごとアルミで包み、炭火の中に放り込んだ。 やがて春らしい匂いがほのかに漂い始め、二つに切ってみると 筍と炭と焦げと友情の匂いが、ひしめきあいながら立ち上ってきた。 「あぁ、アライグマは、この匂いを知って欲しかったんだな」と思いながら、 柚子味噌をちょっぴり乗せて食す。
by ksfarm
| 2012-04-02 15:28
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